逃げ墨(返り墨)とは通り芯から離して打つ理由と距離の決め方、元の位置への戻し方
逃げ墨(にげずみ)は、本来の位置に墨を打てない、または打っても隠れてしまうときに、そこから決まった距離だけ離して打つ墨です。返り墨(かえりずみ)とも呼ばれます。この記事では、逃げ墨が必要な理由、離す距離の決め方、書き込む記号、打つ手順、逃げ墨から壁や開口の位置を出す計算、よくある質問までまとめます。
逃げ墨(返り墨)とは
逃げ墨が必要な理由
建物の位置は、通り芯(柱や壁の中心線)を基準に決まります。ところが、通り芯の真上には柱や壁、型枠が立つため、通り芯そのものに墨を打っても、工事が進むとすぐに隠れて使えなくなります。
そこで、通り芯から1,000mmなど切りのよい距離だけ離した位置に、平行な墨を打っておきます。これが逃げ墨です。工事の途中でも、逃げ墨から測れば、いつでも通り芯の位置を正しく出し直せます。
国の公共建築工事標準仕様書でも、遣方を設けたあと「工事に支障のない場所に逃げ心を設ける」と定めています。
逃げ墨と返り墨の違い
逃げ墨と返り墨は、ほとんど同じ意味で使われています。会社や地域によっては、基準から離して打った墨を逃げ墨、逃げ墨から測って元の位置に戻して打った墨を返り墨、と呼び分けることもあります。呼び方で迷ったら、「どの墨から、どちら向きに、何ミリか」を確かめれば間違いありません。
逃げ墨の距離の決め方
切りのよい寸法にする
1,000mmや500mmなど、切りのよい寸法にします。計算で足し引きするときに間違いにくくなります。同じ現場では、同じ向きの逃げ墨の距離をそろえます。通りごとに距離が違うと、読み間違いのもとになります。
消えない場所を選ぶ
柱・壁・型枠・足場・資材置き場を避け、工事が終わるまで消えない場所を選びます。床に打った逃げ墨は、人や台車が通ると薄くなるので、よく通る場所では何か所かに分けて打っておくと安心です。
離しすぎない
距離が長すぎると、測るときの誤差が大きくなり、部屋の外にはみ出すこともあります。部屋の中に収まる範囲で、できるだけ近くに打ちます。
逃げ墨に書き込む記号
逃げ墨は、見ただけで「何の墨から、どちらに、何ミリ離れているか」が分かるように書き込みます。
| 書き込む内容 | 例 |
|---|---|
| 元になる通り芯の名前 | X1、Y3 など |
| 逃げている距離 | 1000、500 など |
| 元の位置の向き | 矢印(元の墨がある側を指す) |
たとえば「X1 返り 1000 ↑」と書けば、矢印の向きに1,000mm戻った位置がX1通りの芯という意味になります。書き方は会社や現場ごとに決まりがあることが多いので、最初に確認しておきます。
逃げ墨を打つ手順
- 基準点(測量の杭や前の工程の墨)から、通り芯の位置を確認します。
- 通り芯の両端で、決めた距離(例:1,000mm)を直角に測って印を付けます。
- 2つの印を結んで墨を打ちます。長い距離は途中にも印を取り、たるみや曲がりがないようにします。
- 交わる逃げ墨どうしが直角になっているか、対角線の長さで確認します。
- 距離と矢印、通り芯の名前を書き込みます。
直角の確認は、3:4:5の比の三角形を使う方法(大矩)が便利です。
逃げ墨から元の位置を出す計算
壁や建具の位置を出すときは、逃げ墨から逆向きに測って必要な墨を出します。
- 逃げ墨の矢印の向きと距離を確認します。
- 逃げ墨の2か所以上から、同じ距離を直角に測って印を付けます。
- 印を結べば元の通り芯です。壁の仕上がり面などは、そこからさらに図面の寸法を足し引きして出します。
計算例:壁の芯と仕上がり面
X1通りから1,000mmの逃げ墨があり、壁の芯がX1通りから150mm逃げ墨側にある場合、逃げ墨から壁の芯までは 1,000 − 150 = 850mm です。壁の厚さが120mmなら、逃げ墨側の仕上がり面は壁の芯からさらに60mm逃げ墨側なので、850 − 60 = 790mm になります。
向きを取り違えないコツ
足すのか引くのかを取り違えると、寸法の2倍もずれた位置に墨を出してしまいます。紙に簡単な図を描き、逃げ墨・通り芯・出したい墨の順番と向きを確かめてから測るのが確実です。
逃げ墨についてよくある質問
逃げ墨は何ミリ逃げるのが普通ですか
決まった数字はありませんが、1,000mmや500mmがよく使われます。現場の中で統一されていることが大切です。
逃げ墨は床だけに打つものですか
床に打つことが多いですが、柱や壁に垂直の墨(立ち墨)を打つときも、同じように本来の位置から逃げて打つことがあります。
逃げ墨が消えてしまったらどうしますか
ほかの通りの逃げ墨や基準点から、同じ手順で出し直します。消えかけた墨を目分量でなぞると誤差が出るので、必ず基準から測り直します。
逃げ墨とあわせて知っておきたい墨
逃げ墨のように基準になる墨は親墨、そこから測って出す墨は子墨と呼ばれます。墨の種類と墨出しの順番は親墨・子墨・地墨の違いと墨出しの順番、高さの基準になる墨は陸墨(ろくずみ)とはで説明しています。









