蟻継ぎ(あり継ぎ)とは腰掛け蟻継ぎの使う場所・寸法の目安・刻み方
蟻継ぎ(あり継ぎ)は、土台や母屋などの横架材を長さ方向に継ぐ、いちばん基本的な継手のひとつです。この記事では、住宅金融支援機構の「木造住宅工事仕様書(2025年版)」、国土交通省の「公共建築木造工事標準仕様書(令和7年版)」、国交省補助事業の伝統的構法データベース、日本建築学会の論文、ものつくり大学の教材をもとに、蟻継ぎの形と使う場所、継手の位置の決まり、寸法の目安、強さ、手刻みの手順、プレカットの蟻をまとめます。
蟻継ぎとは
蟻継ぎは、蟻の頭のような形のほぞで、2本の材を長さ方向に継ぐ継手です。ふつうは、上にのる材(男木)を受け支える「腰掛け」を付けた腰掛け蟻継ぎにします。腰掛けは敷面とも呼ばれ、敷面蟻継ぎともいいます(ものつくり大学の教材)。
ほぞが付いた方を男木、ほぞ穴が彫られた方を女木といい、女木の腰掛けに男木を上から落とし込んで組みます。伝統的構法の検討委員会の報告書では、元口と末口を継ぐ送り継ぎでは、元口を女木、末口を男木にするのが一般的とされています。
蟻継ぎと蟻掛けの違い
材を長さ方向につなぐものを「継手」、ある角度で組むものを「仕口」といいます。蟻継ぎは継手で、同じ蟻の形でも、土台の隅やT字部、けたと小屋ばりなどを組む「大入れあり掛け」「かぶとあり掛け」は仕口です。
蟻継ぎを使う場所
住宅金融支援機構の木造住宅工事仕様書(2025年版)では、部材ごとに使える継手を次のように挙げています。
- 土台:腰掛けあり継ぎ・腰掛けかま継ぎ
- 軒げた:追掛け大栓継ぎ・腰掛けかま継ぎ・腰掛けあり継ぎ
- 間仕切りげた:腰掛けかま継ぎ・腰掛けあり継ぎ
- むな木・母屋:腰掛けかま継ぎ・腰掛けあり継ぎ(N75くぎ2本打ち)
- 大引き:相欠き継ぎ(N75くぎ2本打ち)・腰掛けあり継ぎ
- 胴差し:追掛け大栓継ぎ・腰掛けかま継ぎ
- 2階床ばり:台持ち継ぎ・追掛け大栓継ぎ・腰掛けかま継ぎ(短ざく金物など)
胴差し・小屋ばり・2階床ばりの継手には、腰掛けあり継ぎは挙がっていません。仕様書の解説(平成22年版)では、腰掛けあり継ぎは「通常、土台や軒げたなどの継手に用いられる」としています。
継手の位置の決まり
- 土台:柱と床下換気孔の位置を避ける(機構仕様書 5.1.2、公共建築木造工事標準仕様書 5.6.1)。
- 土台のアンカーボルト:継手の上木の端部に入れる(機構仕様書 平成22年版 3.3.8)。公共建築木造工事標準仕様書では「アンカーボルトが継手の上側の材の継手付近になるように」としています。
- 軒げた・間仕切りげた:はりを受ける柱間を避け、柱より持ち出す。
- むな木・母屋:束の位置を避け、束より持ち出す。
- 大引き:床束心から150mm内外持ち出す。
- 全体:継手は構造上の弱点になるので、1か所に集めず「ちどり」に配置する。やむを得ず短い材を使うときは、土台で1m内外、そのほかで2m内外とする(機構仕様書 平成22年版 4.2.2)。
なお、建築基準法施行令第47条と告示第1460号は、継手を「存在応力を伝えるように緊結」することを求めているだけで、継手の種類や位置までは決めていません。上の決まりは仕様書の規定です。
寸法の目安
住宅金融支援機構の仕様書にも公共建築の仕様書にも、蟻継ぎの寸法の決まりはありません。数値があるのは、伝統的構法データベースの実験で「一般的な蟻継ぎ」として決めた理論式の適用範囲です。
| 部分 | 目安 | 120角の場合 |
|---|---|---|
| 蟻の付け根の幅 | 材幅の1/4〜1/3 | 30〜40mm |
| 蟻の長さ | 材幅の1/4〜1/2 | 30〜60mm |
「120角の場合」は、材幅120mmに当てはめて計算した値です。蟻の勾配や腰掛けの長さを数値で示した公的な資料は見つかりませんでした。手刻みでは、ものつくり大学の教材のように、さしがねの幅(五分)を利用して蟻の斜めの墨を入れるやり方があります。
蟻継ぎの強さ
伝統的構法データベースの引張試験(120角のスギ、蟻の付け根の幅30mm)では、蟻継ぎの最大荷重の平均は約6.3〜7.6kNでした。同じ事業の腰掛け鎌継ぎ(120角のスギ、目違いなし)は平均約15.7〜21.2kNで、引張には鎌継ぎの方がおよそ2〜3倍強い結果です(材料の等級や乾燥の条件が違うので目安です)。
- 蟻の長さを25mmより長くしても、最大荷重はほとんど伸びず、割れ(割裂破壊)が起きやすくなる。理論式でも、せん断で効く長さは25mmが上限です。
- 壊れ方は、せん断・割裂のどちらも急に壊れる脆性的な破壊で、変形できる量は5〜7mm程度。
- 蟻継ぎは回転に対する抵抗が小さいので、曲げモーメントの大きいところに設けるときは、構造計画上の注意が必要とされています。
- 節や目切れを継手の部分から取り除くのは難しいので、設計では十分な安全率をとり、金物で補強して危険を分散する方法もあります。
理論式の再計算:蟻の長さ25mm×材成120mm×スギの基準強度1.8N/mm²(せん断)=5,400N=5.4kNで、資料の理論式の値と一致します。
腰掛け蟻継ぎの刻み方
ものつくり大学の教材(仕口継手技能)の手順をまとめます。
女木の墨付けと加工
- 上端から、砂切りの墨、腰掛け部分の墨、蟻の墨と切り墨を入れる。蟻の墨は材の心墨から振り分ける。
- 腰掛けの墨から蟻の墨に向かって斜めに墨を入れ、両側面に腰掛け部分の墨を入れる。
- 墨を半分残して、縦挽きのこで腰掛けの敷面を挽き、横挽きで腰掛けを作る。
- 縦挽きで蟻の両側を挽く。蟻の端部と腰掛け部分を切り込まないように注意する。
- のみで蟻のほぞ穴を敷面まで掘り下げる。蟻の先端の部分は、墨より1分(約3mm)ほど多めに掘る。先が当たって、ほかの部分にすき間ができないようにするためです。
男木の墨付けと加工
- 上端から、砂切りの墨、蟻の先端の墨、切り墨を入れ、蟻の墨を心墨から振り分ける。
- 両側面に腰掛け部分の墨を入れ、下端は側面の墨をそのまま回す。
- 墨を半分残して胴付きまで縦挽きし、横挽きで引き落として敷面の部分を作る。
- 入り勝手勾配を付けるため、上端は墨を残し、下端は墨を払うようにして、蟻を胴付きまで縦挽きする。
- 胴付きを横挽きで引き落とし、残った部分をのみで落として、面を取って仕上げる。
公共建築木造工事標準仕様書でも、仕口・継手の加工では余分な彫込みや切込みをしないこと、のこ引きの横引きを深くしないことを求めています。墨付けの道具の使い方はさしがねの使い方で説明しています。
プレカットの蟻
住宅金融支援機構の仕様書(平成22年版)には、プレカットによる代表的な継手の例として、腰掛けかま継ぎと腰掛けあり継ぎの図が載っています。日本建築学会の論文(2014年)によると、プレカットの継手・仕口は手加工の形をおおむね踏まえつつ、底の部分が回転する工具の曲面になります。女木の底は、手加工のように平らには加工できないとされています。
同じ研究者の論文(2013年)では、プレカット加工機メーカー3社の腰掛け蟻仕口(T字に組む仕口)の平均的な形として、120角で蟻幅40mm、蟻の角度は14°と18°が使われているとしています。これは継手ではなく仕口の寸法です。
よくある失敗
土台の継手を柱や換気孔の位置にする
仕様書では、土台の継手は柱と床下換気孔の位置を避けるとしています。アンカーボルトは継手の上木の端部に入れます。
継手を1か所に集める
継手は弱点になるので、ちどりに配置します。伝統的構法の報告書でも、継手の位置をそろえる芋継ぎは避けるべきとしています。
蟻を長くすれば強いと考える
実験では、蟻の長さが25mmを超えても最大荷重はほとんど伸びず、割れやすくなりました。
女木の蟻先端を墨どおりに掘る
先端が当たってほかの部分にすき間ができます。1分ほど多めに掘ります。
蟻継ぎについてよくある質問
蟻継ぎと鎌継ぎはどちらが強いですか
伝統的構法データベースの120角スギの引張試験では、腰掛け鎌継ぎの最大荷重が蟻継ぎのおよそ2〜3倍でした。仕様書でも、胴差しや2階床ばりには鎌継ぎや追掛け大栓継ぎが挙がっていて、蟻継ぎは挙がっていません。
土台の継手は法律で決まっていますか
法律では継手の種類や位置は決まっていません。柱と床下換気孔の位置を避け、腰掛けあり継ぎか腰掛けかま継ぎにするのは、住宅金融支援機構の仕様書の規定です。
蟻の首の幅はどれくらいですか
決まった寸法はありません。伝統的構法データベースの実験では、付け根の幅を材幅の1/4〜1/3(120角で30〜40mm)としています。
大引きの継手はどうしますか
床束心から150mm内外持ち出して、相欠き継ぎにN75くぎ2本打ちか、腰掛けあり継ぎにします(住宅金融支援機構の仕様書)。









