墨付けとは大工の墨付けのやり方・道具・記号と墨出しとの違い
墨付け(すみつけ)は、大工が木材に、切る位置やほぞ穴、継手・仕口の形などの線と印を書き込む作業です。この記事では、厚生労働省の大工工事の技能マニュアル、国土交通省の「公共建築木造工事標準仕様書(令和7年版)」、中央職業能力開発協会の技能検定の資料、日本建築学会の論文、ものつくり大学の教材、林野庁の森林・林業白書をもとに、墨付けと墨出しの違い、道具、記号、板図と番付、手順、技能検定での扱いをまとめます。
墨付けとは
厚生労働省の大工工事のマニュアルでは、大工の技能を「原寸図の作成、木削り、墨付け、加工仕上げ、組立て」に分け、墨付けを「材料に加工する部分を正確に描き込む」作業としています。墨つぼ・墨さし・さしがねなどを手際よく使う技能が必要で、墨付けの線に従って加工するので、墨付けのよしあしが仕上がりにそのまま出ます。
国土交通省の公共建築木造工事標準仕様書でも、墨付けは「木材の加工」の中の工程で、「加工図、現寸図、型板、定規等により正確に行う」と定めています(5.4.3)。
墨付けと墨出しの違い
| 項目 | 墨付け | 墨出し |
|---|---|---|
| 書く所 | 木材 | 床・壁など |
| 目的 | 加工 | 位置の基準 |
墨付けは、加工(刻み)のために木材に線を書きます。墨出しは、床・壁・柱など建物の側に、位置や高さの基準の線を出します。墨出しについては墨出しとはで説明しています。
墨付けと刻みの関係
墨付けした線に従って、のこぎりやのみで材を加工するのが刻みです。全国木造住宅機械プレカット協会は、プレカットを「従来は大工さんが墨付けに従って手工具で加工していたもの」を機械で行う技術と説明しています。技能検定(建築大工2級)の作業の順番は、現寸図の作成、木ごしらえ、墨付け、加工組立てです。
墨付けの道具
- 墨つぼ:糸で長い直線(芯墨など)を打つ
- 墨さし:短い直線や印を書く
- さしがね:直角や寸法を取り、線を引く
- しらがき:墨つぼの糸を合わせる切り欠きを付ける
- けびき:材の幅に合わせて芯の切り込みを付ける
- 自由がね:同じ角度(勾配)の線を何本も引く
- 鉛筆:目印を付ける
墨さしは竹を割って作ったへらのような道具で、金属やプラスチックのものもあります。技能検定3級の持参工具では、しらがきはカッターナイフでもよいとされています。自由がねは、角度がずれないようにねじをしっかり締めて使います。道具の使い方は墨壺の使い方とさしがねの使い方で説明しています。
墨の種類と記号
墨の名前
- 芯墨(心墨):材の幅の中心線。墨つぼで打ちます。技能検定では、柱は4面、梁・桁・たる木は上端と下端に打つ課題があります。
- 切り墨:材の両端の切る位置。
- ほぞ墨・ほぞ穴墨:ほぞとほぞ穴の輪郭。ほぞ穴は幅の芯墨から振り分けて付けます。
- 胴付き墨:ほぞの根元の線。
- 口脇墨:桁や棟木で、たる木の下端が当たる線。
- 峠墨:桁や梁の高さの基準の墨。
- 陸墨:水平の基準の墨。
- 三寸返り墨:芯墨から三寸の位置の墨。組み立てたあとに芯がずれていないか確かめるために入れます(ものつくり大学の教材)。
記号
厚生労働省のマニュアルには、現場で使う表示記号として、次の3つが写真で載っています。説明は「いずれも下側の墨が正しいことを示す」です。
- ×の消し印:間違えた墨の上に×を書き、その墨は使わない。
- 正しい墨の印:墨線の上を黒く塗りつぶした印。
- ニジリ印:線をまたぐ山形の印。
技能五輪のマニュアルでは、取り合いで取り除く部分に斜線を入れて分かりやすくするとしています。芯墨や切り墨に付ける記号の形は、人や地域で違い、統一した決まりは公的な資料には見当たりません。
墨を払う・残す・またぐ
のこぎりやのみで墨線のどこを加工するかを、「墨を払う」「墨を残す」「墨をまたぐ」で使い分け、組んだときのきつさを調整します(厚生労働省のマニュアル)。
板図と番付
板図
板図は、棟梁が軸組を計画するための図です。日本建築学会の論文(2000年)の事例では、3尺角の合板やカレンダーの裏に描かれ、縮尺は棟梁によって1:30〜1:90でした。呼び名は「いたず」「ずいた」で、合板に1寸角のます目を書き、平面の線、柱の位置、2階の床伏図や小屋伏図を描き込みます。墨付けのときは、1本の土台の墨付けが終わるたびに、板図の上でその材を鉛筆でなぞって印を付けていく例もあります。
番付
番付は、板図の座標をそのまま部材に書き込んで、どの材がどこに、どの向きで入るかを分かるようにする仕組みです。同じ論文で比べた棟梁6人では、横方向をいろは、縦方向を一二三で表す人が多く、起点を右下にする「登り番付け」と、右上にする「下り番付け」がありました。番付は同じ方向から読めるように書き、南側から建物を見て読めるように書くことが多いとされています。
墨付けの手順
- 図面を読み、板図や現寸図を作る。
- 材を選び、元口・末口、木表・木裏、曲がりやくせを見て、使う向きを決める。
- かんなで材を所定の寸法に仕上げる(木ごしらえ)。墨付けする面が加工の基準になるので、直角と寸法を正確にします。
- 部材の名前と番付を書く。
- 両端の幅の中心に印を付け、墨つぼで芯墨を打つ。
- 切り墨や柱の位置など、基準になる墨を入れる。
- 継手・仕口・ほぞ・ほぞ穴などの墨を、芯墨から振り分けて入れ、印を付ける。取り除く部分には斜線を入れる。
- 墨付けを見直してから、刻みに移る。
材の向きの見方
- 柱や束などの縦の材は、立っていたときと同じように元口を下にする(ものつくり大学の教材)。
- 横架材の継手の女木(下木)は、原則として元口にする(同)。
- 木は木表側に反る(同)。
- 2階床組や小屋組の横架材は背を上にして使う(日本建築学会の論文の事例)。
墨付けの前には、木口に対角線で芯を出し、さしがねを2本使って材のねじれを確かめてから芯墨を付けます(ものつくり大学の教材)。
墨つぼで芯墨を打つとき
材の両端の中心に切り欠きを付けて、墨つぼの軽子を刺し、糸を合わせます。糸は持ち上げながら引き出さないと、材の表面を墨で汚します。打つときは、糸をねじらず、なるべく遠くを持って垂直に持ち上げて放します。
プレカットの時代の墨付け
林野庁の森林・林業白書によると、木造軸組工法のプレカット率は、1989年の7%から、2015年に91%、2024年に94%になっています(元データは全国木造住宅機械プレカット協会)。国土交通省の資料では、大工の就業者は1995年の76.2万人から2020年は29.8万人に減り、60歳以上が4割です(国勢調査)。
一方で、公共建築木造工事標準仕様書は、自動加工装置を使わない加工では現寸図を作ることを定めていて、手で加工する場合も前提にしています。技能検定の建築大工では、1級から3級まで墨付けが課題に含まれています。
技能検定(建築大工)と墨付け
| 等級 | 標準時間 | 打切り時間 |
|---|---|---|
| 1級 | 4時間50分 | 5時間 |
| 2級 | 3時間30分 | 3時間45分 |
| 3級 | 2時間45分 | 3時間 |
中央職業能力開発協会の令和8年度の実技試験の概要の値です。1級・2級は現寸図を作り、木ごしらえと墨付けをしてから加工組立てを行います。3級も、令和7年度の問題では墨付けと加工組立てを行います。採点項目にも「墨付け」があります。
令和7年度の2級・3級の問題では、加工に必要な墨は墨つぼと墨さしで付けること、けびきの線の上から墨付けしてはいけないこと(両端の目印だけは可)が決められています。3級では、鉛筆は墨付けのときの目印にだけ使えます。
墨付けの注意点
- 寸法は中心線から取る(技能五輪のマニュアルで「重要」とされています)。
- 墨付けしたあとに、もう一度確かめる。
- 墨付けした部分に水などを付けない。のみを立てる位置が分からなくなります。
- 墨の線が細くはっきり出るように、墨つぼの綿の水分や墨さしの先を調整する。
- 墨つぼには建築用の墨液を使う。書道用の墨汁は使えません(シンワ測定)。
- 継手ごとに持ち出しの寸法が違うと間違いやすいので、1尺にそろえている大工もいます(日本建築学会の論文の事例)。
墨付けについてよくある質問
墨付けと墨出しは何が違いますか
墨付けは、加工のために木材に線と印を書く作業です。墨出しは、床や壁など建物側に、位置や高さの基準の線を出す作業です。
墨付けは鉛筆でもいいですか
技能検定では、墨は墨つぼと墨さしで付け、鉛筆は目印にだけ使えることになっています。
間違えた墨はどうしますか
厚生労働省のマニュアルでは、間違えた墨の上に×の消し印を書いて、使わない墨であることを示しています。
番付のいろはと一二三は何ですか
板図の座標を表す記号で、横方向をいろは、縦方向を一二三にすることが多く、その記号を部材に書いて組む位置を示します。起点の位置は棟梁によって違います。









