ガス切断のやり方点火・消火と逆火のときのバルブの順番、火口と板厚・圧力の表、ピアシングの手順
ガス切断は、酸素と燃料ガス(アセチレンやLPガス)の炎で鋼材を熱し、酸素を吹き付けて切る方法です。この記事では、厚生労働省が公開しているガス溶接技能講習の補助テキストと、小池酸素工業の切断器の説明、日本乾式安全器工業会の資料、労働安全衛生規則などの条文をもとに、準備から点火・切断・消火までの手順、火口と板厚・圧力の目安、逆火のときの対処をまとめます。バルブの順番や圧力は機種で違うことがあるので、最後は使う切断器と火口の取扱説明書で確かめてください。
ガス切断とは
ガス切断は、予熱炎で鋼材を赤くなるまで熱し、そこに切断酸素(高い純度の酸素)を吹き付けて鉄を燃やし、できた酸化物を吹き飛ばしながら切り進める方法です。厚生労働省のテキストでは、金属を酸化して切るので、ガスの燃焼温度で酸化する鉄系の材料などしか切断できない一方、酸化する材料であれば厚板でも切断できる、としています。
群馬小池酸素の技術資料「ガス切断とは」では、ガス切断できる条件として、発火温度が材料の溶ける温度より低いこと、酸化物の溶ける温度が材料より低いこと、酸化物の流れがよくはがれやすいこと、燃焼を妨げる不純物が少ないことを挙げ、これに当てはまるのは鉄・炭素鋼・低合金鋼などで、炭素の多い鋼は切りにくくなるとしています。
ガス切断に必要な資格
可燃性ガスと酸素を使う金属の溶接・溶断・加熱の業務は、労働安全衛生法施行令第20条第10号の就業制限の業務です。ガス溶接作業主任者免許を受けた人やガス溶接技能講習を修了した人などでなければ、この業務に就けません(労働安全衛生法第61条、労働安全衛生規則第41条・別表第3)。作業するときは資格を証明する書面を持っていきます。講習の内容は溶接の資格の種類で説明しています。
ガス切断の道具と準備
- 酸素と燃料ガスの容器(ボンベ):容器の温度を40度以下に保つ、転倒しないように固定する、衝撃を与えない、運ぶときはキャップを付ける、バルブは静かに開け閉めする、溶解アセチレンの容器は立てて置く(労働安全衛生規則第263条)。通風の悪い場所や火気の近くに置かない(同)
- 圧力調整器:日酸TANAKAの圧力調整器(マスターラインVI)のカタログでは、出口のねじは酸素用が右ねじ、アセチレン用・LPG用は左ねじです。厚生労働省のテキストでは、酸素の調整器の口金は右ねじで、可燃性ガスのボンベには付かないようになっているとしています
- ホース:JIS K 6333(溶断用ゴムホース)では、酸素用は青、アセチレン用は赤、LPガス用はオレンジです。厚生労働省のテキストでは、色は法律ではなくJISで決まっているものとしています
- 乾式安全器(逆火防止器):逆火の炎を止める機構と、酸素が燃料ガス側へ逆流するのを止める機構を持つ器具です。日本乾式安全器工業会は、一般高圧ガス保安規則第60条第13号(溶接・熱切断用のアセチレンの消費は逆火・漏えい・爆発などの災害を防ぐ措置を講じて行う)を根拠に、逆火防止装置の設置が義務になっていると説明しています
- 切断器(吹管)と火口:切る板の厚さに合った火口を、変形や傷のない状態で正しく取り付けます(小池酸素工業)
- 保護具:厚生労働省のテキストでは、点火の前に保護具とガス溶接用の遮光めがねを着けるとしています。遮光度は後半で説明します
作業の前に、ホースや乾式安全器、各部の接続を石けん水などで調べ、ガス漏れがないことを確かめます(小池酸素工業)。
ガス切断の圧力と火口の選び方
厚生労働省のテキストでは、適切な圧力は火口によって違い、火口メーカーのマニュアルなどに書かれているとしたうえで、一般的には酸素0.2〜0.3MPa、可燃性ガス0.02〜0.03MPaとしています。調整は、吹管のバルブが閉じていることを確かめてから、圧力調整器のハンドルをゆっくり回して行います。
火口は切る板の厚さで選びます。小池酸素工業の手動切断器の例は次のとおりです(同社の製品ページの表)。
ゴールドライトII切断器(アセチレン用)
| 火口 | 板厚(mm) | 酸素(MPa) | アセチレン(MPa) |
|---|---|---|---|
| 中切 1番 | 3〜10 | 0.2 | 0.02 |
| 中切 2番 | 10〜20 | 0.3 | 0.02 |
| 中切 3番 | 20〜30 | 0.3 | 0.02 |
| A切 1番 | 3〜15 | 0.3 | 0.02 |
| A切 2番 | 15〜40 | 0.3 | 0.02 |
| A切 3番 | 40〜80 | 0.3 | 0.02 |
スキルカット-100(中圧式、火口502A・506A)
| 火口 | 板厚(mm) | 酸素(MPa) | 燃料ガス(MPa) |
|---|---|---|---|
| No.0 | 5まで | 0.2〜0.3 | 0.015 |
| No.1 | 3〜15 | 0.2〜0.3 | 0.02 |
| No.2 | 5〜20 | 0.3〜0.4 | 0.02 |
| No.3 | 10〜50 | 0.3〜0.45 | 0.025 |
| No.4 | 40〜80 | 0.45〜0.6 | 0.03 |
| No.5 | 60〜100 | 0.45〜0.6 | 0.03 |
燃料ガスの圧力はアセチレン用(502A)・LPG用(506A)とも同じ値です。火口の番号の付け方や圧力は、メーカーや火口の種類で違います。自分の火口の表を見て合わせてください。
ガス切断のやり方(点火と炎の合わせ方)
- 保護具を着ける:保護具とガス溶接用の遮光めがねを着けます。
- 燃料ガスのバルブを開いて点火する:吹管の燃料ガスのバルブを開き、溶接用ライターなど専用の着火具で火を付けます。小池酸素工業の切断器の説明では、燃料ガスのバルブは「多めに」開いて点火するとしています。
- 予熱酸素を開いて中性炎にする:点火した直後の炎は、すすの出る炭化炎です。すぐに予熱酸素のバルブを開き、青白い炎の中に白い円すい形の部分(白心)がはっきり出る状態にします。これが中性炎(標準炎)です(厚生労働省のテキスト)。小池酸素工業のポータブル自動切断機の取扱説明書では、中性炎で使うと良い切断面になるとしています。
ガス切断の切り方
板の端から切るとき
予熱炎の白心を当てて、母材を赤くなるまで熱します。厚生労働省のテキストでは、端面に炎の50〜80%を当てて母材の表面が赤くなるまで熱し、赤熱したら切断酸素のバルブを1回転以上開く、としています。切断酸素を出すと炎が炭化炎になるので、予熱酸素のバルブで中性炎に合わせ直します。
板の途中から切るとき(ピアシング)
- 吹管を垂直に立てて炎を吹き付け、切りたい線の中の1か所を熱します。
- 熱した場所が赤色か黄色になったら、吹管をわずかに(15度程度)傾けて切断酸素を出し、穴をあけます。切断酸素のバルブは、1秒に1回転くらいの割合でゆっくり開きます。
- 傾けたまま、切りたい線に沿ってゆっくり動かします。
吹管を傾けるのは、垂直に立てたままだとスパッタが火口に入るおそれがあるからです(厚生労働省のテキスト)。
速さと火口の高さ
- 火口と母材の距離を一定にし、切断のスパッタが真下に飛ぶ一定の速さで動かす
- スパッタが切る方向と逆に飛ぶなら速すぎる
- 切ったところがまたくっつく(再融着する)なら遅すぎる
- 極端に速いと、最後まで切れない「アンカット」になる
(いずれも厚生労働省のテキスト)。手で持って切るときの速さを数値で示した公式の資料は、この記事では確認できませんでした。開先の加工の決まりは溶接の開先角度とルート間隔で説明しています。
ガス切断の消火の順番
切断作業のあとは、切断酸素→予熱酸素→燃料ガスの順にバルブを閉じます。作業中に火が消えたときも同じ順ですぐに閉じます(厚生労働省のテキスト、小池酸素工業のゴールドライトII切断器の説明)。作業を終えたら、容器のバルブを閉じ、圧力調整器のハンドルをゆるめます。
群馬小池酸素の資料では、燃料ガスから先に止めてはいけない、酸素を止めずに燃料ガスを止めると吹管が燃え出すことがある、としています。
ガス切断の逆火(ぎゃっか)の原因と対処
逆火は、炎が火口の中に戻る現象です。日本乾式安全器工業会では、火炎の燃焼速度より混合ガスの噴き出す速さが遅くなったときに起きるとしていて、吹管の中で炎が燃え続けて「シュー」という音がする持続性逆火と、炎がガスの供給元の方まで戻るフラッシュバックがあるとしています。厚生労働省のテキストでは、作業中に「パチパチ」と音がしたら逆火の可能性があるので、すぐに作業を止めるとしています。
逆火したときのバルブの閉じ方
厚生労働省のテキストと、小池酸素工業のゴールドライトII切断器の説明では、逆火したときは予熱酸素→燃料ガス→切断酸素の順にすぐ閉じます。そのあと容器のバルブを閉じ、原因を調べて対策してから作業を再開します。切断器の中まで逆火した場合は、乾燥エアーで中のすすを取り、十分に冷やしてから使います(小池酸素工業)。小池酸素工業でも製品によって説明の順番が違うものがあるので、使う機種の取扱説明書を確認してください。どの資料も、燃料ガスは最初に閉じない点は同じです。
逆火の主な原因と対策
- 火口の先を材料に当ててふさいだ → 当てない
- 溶けた酸化物(のろ)やスパッタが火口に付いた・入った → 付けない、付いたら掃除する
- 火口が熱くなりすぎた → 温度を上げない、上がったら冷やす
- 燃料ガスの供給が足りない → 燃料ガスを十分に流す。混合の割合が変わったときも起きる
- 火口の締め付けがゆるい、吹管の整備不良 → 正しく取り付ける。何度も逆火した吹管やホースは使わない
(日本乾式安全器工業会、厚生労働省のテキスト)。点火したあとに「パチン」と鳴るときは、火口の締め付けのゆるみや火口の傷が考えられるので、消火して締め直し、直らなければ火口を替えます(厚生労働省のテキスト)。日本乾式安全器工業会では、燃焼速度の速い燃料ガスほど逆火しやすいとしています。厚生労働省のテキストの表では、燃焼速度はアセチレンが7.2m/s、プロパンが2.7m/sです。
ガス切断の遮光めがねの選び方
日本溶接協会のWES 9009-3(改正原案)に転載されたJIS T 8141の附属書(参考)の使用標準では、酸素切断の遮光度番号の目安は、酸素の使用量(1時間あたり)が900Lを超え2,000Lまでで5番、2,000Lを超え4,000Lまでで6番、4,000Lを超え8,000Lまでで7番です。使う環境や人によって1ランク上下の番号を使ってよいとされています。
ガス切断の安全の決まり
- 通風や換気の悪い場所でガス切断するときは、傷みのないホースと吹管を使い、接続はホースバンドなどで確実に締め、溶断では換気を十分に行う。作業から離れるときはガスの供給口のバルブを閉じる(労働安全衛生規則第262条)
- 油や可燃性の粉じん、危険物が残っているおそれのある配管・タンク・ドラム缶は、それを取り除くなどの対策をしてからでなければ溶断しない(同第285条)
- 通風の悪い場所で、酸素を換気や送風に使ってはならない(同第286条)
ガス切断についてよくある質問
ガス切断に資格は必要ですか
必要です。可燃性ガスと酸素を使う溶接・溶断・加熱の業務は就業制限の業務で、ガス溶接技能講習の修了などが必要です(労働安全衛生法第61条、施行令第20条第10号)。
点火するときはどちらのバルブを先に開けますか
燃料ガスです。燃料ガスを開いて点火し、すぐに予熱酸素を開いて中性炎に合わせます。
消火するときはどの順番ですか
切断酸素、予熱酸素、燃料ガスの順です。燃料ガスを先に閉じないようにします。
ステンレスやアルミはガス切断できますか
厚生労働省のテキストでは、ガス切断はガスの燃焼温度で酸化する鉄系の材料などしか切断できないとしています。群馬小池酸素の資料では、切断できる条件に当てはまるのは鉄・炭素鋼・低合金鋼などです。それ以外の材料は、使う機械と材料のメーカーの資料で確認してください。
酸素とアセチレンの圧力はいくつですか
火口で違います。厚生労働省のテキストでは一般的に酸素0.2〜0.3MPa、可燃性ガス0.02〜0.03MPaとしています。火口の表に合わせてください。
アセチレンとLPガスの違いは何ですか
厚生労働省のテキストの表では、酸素中の最低着火温度はアセチレン296℃、プロパン470℃、燃焼速度はアセチレン7.2m/s、プロパン2.7m/sです。火口や調整器は燃料ガスに合ったものを使います。









