TIG溶接のやり方電流の目安、タングステン電極の選び方・研ぎ方
TIG(ティグ)溶接は、タングステンの電極とアルゴンガスを使い、溶加棒を手で入れながら溶接する方法です。この記事では、日本溶接協会の技術Q&A、ダイヘン・パナソニックの溶接機の資料、神戸製鋼(KOBELCO)の溶接材料カタログ、JIS Z 3233(タングステン電極)、職業訓練の実習テキストなどをもとに、直流と交流の使い分け、電流の目安、電極の選び方と研ぎ方、突出し長さとガス流量、アークの出し方、溶加棒の入れ方、よくある失敗と対策をまとめます。
TIG溶接とは
JIS Z 3001-7では、ティグ溶接を「非消耗の純タングステン又は酸化物入りタングステンを電極に用い,電極部と溶融池とをシールドガスで保護するガスシールドアーク溶接」としています。電極は溶けず、溶接金属は溶加棒を手で入れて足します。
日本溶接協会の資料では、アークで母材を溶かすことと、溶加材を送ることを別々に調整できるので品質は高い一方、溶接の速度が遅く能率は低いとしています。KOBELCOのカタログでも、電流と溶加量を別々に決められるので、パイプの全周や裏波の溶接に使われるとしています。
直流と交流の使い分け
| 材料 | 電源 |
|---|---|
| 鉄(軟鋼) | 直流・電極マイナス |
| ステンレス | 直流・電極マイナス |
| 銅(脱酸銅) | 直流・電極マイナス |
| アルミ | 交流 |
ダイヘンの資料と日本溶接協会の表によります。直流の電極マイナスは、電極の消耗が少なく、集中したアークで深く溶け込みます。アルミの表面には溶ける温度がとても高い酸化皮膜があるので、母材がマイナスになる間の「クリーニング作用」で皮膜を取り除けるよう、交流を使います(日本溶接協会)。
パルス
パルスは、溶接電流を周期的に上げ下げする機能です。日本溶接協会の資料では、0.5〜15Hz程度の低い周波数のパルスは、立向・上向の溶接の垂れを防いだり、裏波を出したりするのに向くとしています。
電流の目安
メーカーの条件表の例です。継手の形、姿勢、裏波を出すかどうかで大きく変わるので、目安として使ってください。
ステンレス(直流)
| 板厚 | 電流 | 電極径 | アルゴン |
|---|---|---|---|
| 1.0mm | 30〜60A | 1.0・1.6mm | 4L/分 |
| 1.6mm | 60〜90A | 1.6・2.4mm | 4L/分 |
| 2.4mm | 80〜120A | 1.6・2.4mm | 4L/分 |
| 3.2mm | 110〜150A | 2.4・3.2mm | 5L/分 |
| 4.0mm | 130〜180A | 2.4・3.2mm | 5L/分 |
アルミ(交流)
| 板厚 | 電流 | 電極径 | アルゴン |
|---|---|---|---|
| 1.0mm | 50〜60A | 1.6mm | 5〜6L/分 |
| 1.6mm | 60〜90A | 1.6・2.4mm | 5〜6L/分 |
| 2.4mm | 80〜110A | 1.6・2.4mm | 6〜7L/分 |
| 3.2mm | 100〜140A | 2.4・3.2mm | 6〜7L/分 |
| 4.0mm | 140〜180A | 3.2・4.0mm | 7〜8L/分 |
2つの表は、ダイヘンの「チェックポイント TIG溶接機編」(2025年10月)の溶接条件例です。パナソニックの取扱説明書の条件表(下向の突合せ)では、ステンレス3.0mmが120〜140A、アルミ3.0mmが125〜145Aです。同じステンレス3mmでも、職業訓練の実習テキストのビード置きの練習では90A、産総研のものづくりDBの資格試験(TN-F)の実習例では、裏波を出す初層で70〜80Aとしていて、資料によって差があります。
タングステン電極の選び方
| 種類 | 記号 | 色 |
|---|---|---|
| 純タングステン | YWP | 緑 |
| 2%セリウム入り | YWCe-2 | 灰 |
| 2%ランタン入り | YWLa-2 | 黄緑 |
| 2%トリウム入り | YWTh-2 | 赤 |
記号と色はJIS Z 3233の表によります。ダイヘンの使い分け表では、純タングステンは交流用で直流には使えず、セリウム入りとランタン入りは交流・直流のどちらにも使えます。日本溶接協会の資料では、ランタン入りは溶接用電極の中でいちばん消耗しにくくアークが出しやすい、セリウム入りは交流でも変形が小さいのでアルミに使う、トリウム入りは昔から直流に使われてきたとしています。ダイヘンの直流TIG溶接機の取扱説明書では、セリウム入りかランタン入りを使うよう指定しています。
トリウム入りの電極棒は、国のガイドライン(ウラン又はトリウムを含む原材料、製品等の安全確保に関するガイドライン)で、精製トリウムを含む製品の例として挙げられています。
電極の太さと電流
ダイヘンの取扱説明書では、直流(電極マイナス)で使うセリウム入り・ランタン入りの電極の最大許容電流を、1.6mmで150A、2.4mmで250A、3.2mmで400Aとしています。電極が細すぎるとタングステンが溶け、太すぎるとアークが不安定になります(ダイヘン)。
電極の研ぎ方
- 電極の中心に先が来るように、均等な円すい形に研ぐ。
- 先端の角度は45°程度が目安(職業訓練の実習テキスト)。パナソニックの溶接機の条件表示では、アルミの薄板で1.6mm・30°の例もあり、条件で変わります。
- 研いだ面はなるべく滑らかにし、目の粗い砥石は使わない。表面がざらざらだと消耗が早くなります。
- 電極の長さの方向に研ぎ目が付く向きで仕上げると、アークの集中がよくなる(同テキスト)。
日本溶接協会の資料では、先端の角度が鋭いほどアークが広がり、溶け込みは浅くなるとしています。先端に母材や溶加棒が溶けて付いたときは、研ぎ直します。
突出し長さ・アーク長・ガス流量
| 継手 | 電極の突出し長さ |
|---|---|
| 突合せ | 4〜5mm |
| すみ肉(T継手) | 5〜6mm |
| 角継手(外かど) | 2〜3mm |
ダイヘンの資料の値で、ノズルの先端から電極の先までの長さです。突出しが長いと溶融池が見やすい反面、シールドが弱くなります。ガスレンズ用のノズルを使うと、突出しを長くできます。
- アーク長:1〜3mm(KOBELCO)。長すぎるとシールド不良になり、アンダカットも出やすくなります。
- アルゴンの流量:資料によって4〜20L/分と幅があります。職業訓練の実習テキストでは、ノズル内径(mm)の数字をそのままL/分にした値を目安にしています。日本溶接協会の資料では、流量が多すぎると乱流になって周りの空気を巻き込み、かえってシールドが悪くなるとしています。
- ノズル:ダイヘンのトーチ部品では、No.4が内径6.5mm、No.5が8mm、No.6が10mm、No.7が11mm、No.8が13mmです。
アークの出し方
- 高周波スタート:電極を母材から離したままスイッチを押すと、火花が飛んでアークが出る
- タッチスタート:電極を母材に触れさせて電流を流し、引き離してアークを出す
日本溶接協会の資料では、電極を触れさせる方式はノイズがとても小さい一方、電極の先を傷めたり、タングステンを巻き込んだりするおそれがあるとしています。職業訓練の実習テキストでは、高周波スタートのとき、ノズルを母材に当てた状態でスイッチを押し、電極は母材に触れさせないとしています。
トーチの角度と溶加棒の入れ方
- トーチは母材から70〜75°(垂直から進む向きと反対側に10〜20°)傾ける。
- 溶加棒は母材から15°前後で、溶融池の先の方へ入れる。
- 溶加棒の太さは、電極の径と同じか、やや太めにする。細すぎると溶けて吹き飛び、太すぎると電極に当たってショートします(ダイヘン)。
職業訓練の実習テキストでは、次の3つを繰り返します。
- 前のビードと同じ幅の溶融池を作る。
- 溶加棒の先で溶融池に軽く触れて溶かし込む。
- トーチを同じ間隔(目安1.5mm程度)で進める。
同じテキストでは、トーチを倒しすぎる、アークが長い、電極の先の形が悪い、の3つを、溶加棒の先が玉(ダマ)になる主な原因としています。
クレータ処理とアフターフロー
ビードの終わりにできるくぼみ(クレータ)は、割れや欠陥の原因になるので、電流を下げて埋めます(ダイヘン)。職業訓練の実習テキストでは、クレータ電流を溶接電流の70%程度、アークを切ったあとも、ガスが出ている間はノズルをクレータに近づけて守るとしています。
アークを切ったあとにガスを流すアフターフローの時間が短いと、電極が酸化して黒くなります。正常なら、電極は白か少し青みがかって光ります(ダイヘン)。
ステンレスの裏波を出すときは、裏側もアルゴンなどで守るバックシールドが必要です。くわしくは裏波溶接とはで説明しています。
よくある失敗と対策
- ビードが黒く焼ける:アーク長が長い、溶接速度が遅い、電流が高い、風、トーチの倒しすぎ
- ブローホール:母材のさび・油・水分、風。溶接前に汚れを取り、風よけをする
- 電極が母材に触れた:先が変形して汚れるので研ぎ直す
- 電極が黒くなる:アフターフローが短い
- 溶加棒がダマになる:トーチの倒しすぎ、アークが長い、電極の先の形が悪い
職業訓練の実習テキスト、KOBELCOのカタログ、ダイヘン・パナソニックの資料によります。タングステンの巻込みは、放射線透過試験(JIS Z 3104)でもきずの種別のひとつになっています。欠陥の種類は溶接欠陥の種類と原因で説明しています。ステンレスの溶接の焼けの取り方はステンレスの焼け取りで説明しています。
安全と資格
- TIG溶接もアーク溶接機を使うので、アーク溶接等の特別教育(労働安全衛生規則第36条第3号、学科11時間・実技10時間)の対象です。
- 遮光の番号は、ダイヘン・産総研の参考値で、100A以下が9・10、100〜300Aが11・12です。
- 日本溶接協会の資料に載っている厚生労働省の回答では、アルミのTIG溶接も溶接ヒュームの規制がかかる「金属アーク溶接等作業」に含まれるとしています。
- JISの技能資格では、炭素鋼はT-1F(JIS Z 3801)、ステンレスはTN-F(JIS Z 3821)、アルミはTN-1F(JIS Z 3811)がTIG溶接の基本級です。
資格の種類は溶接の資格の種類で説明しています。
TIG溶接のやり方についてよくある質問
ステンレス3mmは何アンペアですか
メーカーの条件表では、ダイヘンが3.2mmで110〜150A、パナソニックが3.0mmの突合せ(下向)で120〜140Aです。裏波を出す初層などはもっと低く、継手や姿勢で変わります。
タングステン電極は何色を使えばいいですか
鉄やステンレスの直流には、セリウム入り(灰)やランタン入り(黄緑)が使われます。純タングステン(緑)は交流用で、直流には使えません(ダイヘン)。
電極はどれくらい出しますか
ノズルの先から、突合せで4〜5mm、すみ肉で5〜6mm、角継手で2〜3mmが目安です(ダイヘン)。
アルミはなぜ交流で溶接しますか
アルミの表面の酸化皮膜を、交流のクリーニング作用で取り除くためです。
アルゴンは何L/分流しますか
資料によって4〜20L/分と幅があります。多すぎると空気を巻き込むので、流しすぎないようにします。









