ステンレスの焼け取り溶接焼けを取る方法と注意点(酸洗・電解・研磨)
ステンレスを溶接すると、ビードのまわりが金色・青色・黒色に変色します。これが「溶接焼け(テンパーカラー)」です。この記事では、日本溶接協会・ステンレス協会の資料、日鉄溶接工業などのメーカー資料、毒物及び劇物取締法・特定化学物質障害予防規則をもとに、焼けの正体と取る理由、焼け取りの方法(機械的・酸洗・電解)と特徴、使ってはいけないもの、薬品の安全、焼けを出にくくする方法をまとめます。
溶接焼けとは
ステンレスは、表面にクロムの多い薄い不動態皮膜ができることで、さびにくくなっています。溶接の熱で高温になった部分が空気に触れると、クロムが減って鉄の多い酸化皮膜ができます。これが溶接焼けです。日鉄溶接工業の資料では、加熱の温度が上がるにつれて、色が金色→赤色→青色→黒色と変わり、皮膜も厚くなるとしています。
焼けの皮膜の下には、目に見えないクロムの少ない層(クロム欠乏層)ができることがあり、耐食性が下がる原因になると考えられています。
焼けは取る必要があるか
日本溶接協会の資料では、使用条件によっては焼けと母材のあいだの電気化学的な反応で腐食事故につながるため、溶接焼けは完全に取る必要があるとしています。日鉄溶接工業も、色の濃い焼けほど耐食性が落ちるとして、除去することが望ましいとしています。
一方で、日本溶接協会の別の回答では、酸化スケールが直接悪い影響を及ぼすことはないが、スケールが厚く成長した場合やスパッタ・スラグが付いた場合は耐食性を下げる可能性がある、としています。焼けがあると必ずすぐさびるわけではありませんが、水回り・厨房・屋外など、ぬれる環境や見た目が大事な場所では、取るのが基本です。
焼け取りの方法
焼け取りの方法は、大きく分けて次の3つです。
- 機械的除去:ステンレス製やナイロンのブラシ、研磨、ブラストで削り取る。道具が簡単だが、表面に傷がつきやすい。ブラシでは焼けの下のクロム欠乏層は取れない(Outokumpu)。
- 酸洗:硝酸とふっ化水素酸の混酸(硝ふっ酸)に浸けるか、酸洗ペーストを塗る。焼けとクロム欠乏層を取れるが、薬品の危険性が高く、接触時間と水洗の管理、廃液処理が必要。
- 電解焼け取り:電解液を含ませた電極で、電気を流しながら焼けの部分をなぞる。焼けをピンポイントで取れる。電解液の拭き残しや、廃液への六価クロムの溶け出しに注意する。
機械的除去の注意
日本溶接協会の資料では、ステンレスの焼けは炭素鋼のスケールより緻密で硬く、ワイヤブラシでは取りにくいとしています。ディスクグラインダーなら取れますが、すり傷で品質が下がり、表面が活性化するので、機械的に取ったあとは不動態化処理をしておくことが望ましいとしています。Outokumpuは、研削で表面が黄色く焼けるほど熱くしないこと、砥石やベルトは新品かステンレス専用のものを使うことを挙げています。
酸洗の注意
硝酸だけでは焼けは取れず、ふっ化水素酸を加えた混酸が使われてきました。塩酸や硫酸を単独で使うと、表面を活性化させるので避けます(日本溶接協会)。酸洗ペーストは、塗ってからの時間と最後の水洗を、製品の説明書どおりに守ります。時間が長すぎたり水洗が足りなかったりすると、肌荒れや腐食の原因になります。
電解焼け取りの注意
電解焼け取りは、電解液を含ませた電極で焼けをなぞり、終わったら水洗いするか、ぬれ雑巾で拭き上げます。日本溶接協会の資料では、溶け出したクロムが六価クロムになって廃液に移ることに注意するよう書かれています。すき間のある部品では、電解液が残ってあとからシミになることがあるので、メーカーの指示どおり中和・水洗します。
使ってはいけないもの
- 鉄製のワイヤブラシ・鉄製の工具:日本溶接協会は「絶対に避けるべき」としています。鉄の粉がステンレスの表面に残り、「もらいさび」の原因になります。ブラシはステンレス製を使います。
- 炭素鋼に使った砥石・ベルト・ブラストの砥粒:鉄の粒子が表面に残り、さび色の変色の原因になります。ステンレス専用にします。
- 塩酸などを単独で使う:表面を活性化させたり、孔食の危険があったりするので避けます。
薬品の安全
| 法律 | ふっ化水素酸 | 硝酸 |
|---|---|---|
| 毒劇法 | 毒物 | 劇物(10%超) |
| 特化則 | 特定第2類(5%超) | 第3類(1%超) |
毒劇法は毒物及び劇物取締法、特化則は特定化学物質障害予防規則(特定第2類物質・第3類物質)です。ふっ化水素酸は、ふっ化水素を含む製剤なら濃度にかかわらず毒物です。かっこ内は、対象になる濃度(重量)です。
ふっ化水素酸は、皮膚に付くと深いところまで傷める危険な薬品で、厚生労働省のモデルSDSでは、8%のふっ化水素酸を含む洗浄液を使って、24時間後に激しい痛みを伴う手指の腫れが出た症例が挙げられています。症状が遅れて出ることがあるのも特徴です。酸洗液やペーストを使うときは、保護めがね・耐酸性の手袋・保護衣を使い、換気のよい場所で作業します。特定化学物質障害予防規則の対象になる作業では、保護具の備え付けや特殊健康診断などの決まりがあります。容器には「医薬用外毒物」などの表示をし、盗難や漏れを防いで保管します。
廃液は、そのまま流したり捨てたりできません。pH2.0以下の廃酸は特別管理産業廃棄物になります。中和して処理するか、許可を持つ業者に処理を頼みます。
焼けを出にくくする方法
- バックシールド:管の内側など裏側をアルゴンガスで満たして、空気に触れさせない。ステンレス協会の配管ガイドでは、窒素ガスでシールドする場合の内側の酸素濃度を50ppm以下(腐食しやすい環境では30ppm以下)としています。日本溶接協会の会報では、工業的な管理の目安を2%以下(少ないほどよい)としていて、資料や用途で数値が違います。
- ガスを止めるタイミング:溶接が終わっても、表面が十分に冷えるまでシールドガスを流し続ける。ステンレス協会の配管ガイドでは、バックシールドのガスは100℃以下まで十分に冷えてから止めることを勧めています。
- アフターシールド:トーチのあとにもシールドガスを流して、固まった直後のビードを大気から守る。日本溶接協会の資料(フェライト系ステンレス)では、約300℃程度に下がるまで遮ることが必要としています。
- 入熱を抑える:加熱の温度が高いほど焼けは濃く厚くなるので、必要以上に熱を入れない。
裏波溶接とバックシールドの考え方は裏波溶接とはで説明しています。
焼け取りのあとの不動態化処理
正しく酸洗した表面は、自然に不動態皮膜ができます(Outokumpu)。一方、研磨などの機械的な方法で取った表面は活性化しているので、不動態化処理をしておくことが望ましいとされています。ただし、不動態化処理だけでは焼けそのものは取れません。
よくある失敗
鉄製のブラシで焼けをこする
焼けは取れても、あとから「もらいさび」が出ます。ステンレス製のブラシか、ステンレス専用の研磨材を使います。
酸洗ペーストを塗ったまま放置する
接触時間が長すぎると、肌荒れや腐食の原因になります。説明書どおりの時間で、十分に水洗いします。
電解液を拭き残す
すき間に残った電解液が、あとでシミになることがあります。メーカーの指示どおりに中和・水洗します。
ステンレスの焼け取りについてよくある質問
ステンレスの溶接焼けは取らないといけませんか
使う環境によって耐食性が落ち、腐食の原因になることがあるので、水回り・厨房・屋外などでは取るのが基本です。
焼け取りのいちばん簡単な方法は
道具が少なくて済むのは、ステンレス製のブラシや研磨です。ただし表面に傷がつき、焼けの下のクロム欠乏層は取れないので、耐食性が大事な部分は酸洗や電解焼け取りを使います。
焼け取りに鉄のワイヤブラシを使ってもいいですか
使ってはいけません。鉄の粉が残って、もらいさびの原因になります。
酸洗液を使うときに気をつける法律は
ふっ化水素酸を含む薬品は毒物、10%を超える硝酸は劇物で、保管や表示、廃棄の決まりがあります。会社の作業では、特定化学物質障害予防規則による保護具や健康診断などの決まりもかかるので、製品のSDSと法令を確かめて使います。









