半自動溶接のやり方電流・電圧の目安、突出し長さとトーチ角度
半自動溶接は、ワイヤが自動で送られてくるトーチを手で動かして溶接する方法で、鉄骨や架台など鋼材の溶接でよく使われます。この記事では、ダイヘン・パナソニックの溶接機の資料、神戸製鋼(KOBELCO)・日鉄溶接工業の溶接材料カタログ、日本溶接協会の技術Q&Aと研究報告、産総研のものづくり支援DB、法令をもとに、CO2・マグ・ミグの違い、電流と電圧の目安、ワイヤの突出し長さ、トーチの角度(前進法と後退法)、ガス流量と風、よくある失敗、安全と資格をまとめます。
半自動溶接とは
日本溶接協会の資料では、半自動アーク溶接を、溶接用ワイヤを送給装置で連続して送り、トーチ先端のチップから電気を流して、ワイヤと母材の間にアークを出して溶かす方法としています。電源は、ワイヤを一定の速さで送ればアークの長さも自動で一定になる「定電圧特性」のものが一般に使われます。作業者はトーチを動かす速さや角度で、ビードの幅や溶け込みを調整します。
CO2・マグ・ミグの違い
| 呼び名 | ガス | 材料 |
|---|---|---|
| CO2 | CO2 | 鋼 |
| マグ | Ar+CO2 | 鋼 |
| ミグ | Arなど | アルミなど |
Arはアルゴン、CO2は炭酸ガスです。CO2溶接とマグ溶接は軟鋼や高張力鋼に、アルゴンなどの不活性ガスを使うミグ溶接はアルミやステンレスなどに使われます。日本溶接協会の資料では、炭酸ガスを使う溶接もマグ溶接の一種で、混合ガスはアルゴン80:炭酸ガス20の場合が多いとしています。パナソニックの資料では、混合ガスはスパッタが減りビードが滑らかになり、炭酸ガスはスパッタが増える代わりに溶け込みが深く、ガス代が安いので多くの現場で使われるとしています。
電流のつまみはワイヤの送る速さ
ダイヘンの資料では、CO2・マグ溶接機の電流の設定は、実はワイヤを送る速さの設定で、電流計の値はその結果だとしています。突出し長さを変えると電流計の値が変わるのはこのためです。電流に合わせて適正な電圧を自動で決める「一元」の設定もあり、その値を基準に微調整します。
電流・電圧の目安(CO2・ソリッドワイヤ)
下向のI形突合せ(裏当て金なし)
| 板厚 | ワイヤ径 | 電流 | 電圧 |
|---|---|---|---|
| 1.2mm | 0.8・0.9mm | 70〜80A | 18〜19V |
| 1.6mm | 0.8・1.0mm | 80〜100A | 18〜19V |
| 2.3mm | 1.0・1.2mm | 110〜130A | 19〜20V |
| 3.2mm | 1.0・1.2mm | 130〜150A | 19〜21V |
| 4.5mm | 1.2mm | 150〜170A | 21〜23V |
水平すみ肉
| 板厚 | ワイヤ径 | 電流 | 電圧 |
|---|---|---|---|
| 1.6mm | 0.8〜1.2mm | 90〜120A | 18〜20V |
| 2.3mm | 1.0・1.2mm | 120〜140A | 19〜21V |
| 3.2mm | 1.0・1.2mm | 130〜170A | 19〜21V |
| 4.5mm | 1.2mm | 190〜230A | 22〜24V |
| 6.0mm | 1.2mm | 250〜280A | 26〜29V |
| 9.0mm | 1.2mm | 280〜300A | 29〜32V |
2つの表は、ダイヘンがWebで公開している「CO2溶接条件(ソリッドワイヤ)」の値です(軟鋼)。同じダイヘンでも取扱説明書の表とは一部の値が違い、メーカー自身も参考値としています。電流が上がると、適正な電圧も上がります。マグ(アルゴン+炭酸ガス20%)では同じ板厚でも電圧が低く、ダイヘンの表では3.2mmの突合せで120〜140A・16〜17Vです。
ワイヤ径と姿勢
ワイヤの推奨電流は銘柄ごとに決まっています。日鉄溶接工業のYM-28(炭酸ガス用)では、1.2mmのワイヤで下向・水平すみ肉が80〜350A、立向上進が80〜180A、上向が80〜150Aで、立向・上向は上限がかなり下がります。使うワイヤのカタログの値を確かめてください。
電圧の合わせ方
- パンパンとはねるときは電圧が低すぎる(ダイヘン)。
- パタパタと大粒の溶滴になるときは電圧が高すぎる(同)。
- 電圧が高いと、ビード幅が広く、余盛が低く、溶け込みが浅くなり、ブローホールやアンダーカットが出やすい(パナソニック)。
日本溶接協会の資料では、アーク長の目安を炭酸ガスで2〜3mm、アルゴン+炭酸ガス20%で4〜5mmとしています。電圧と電流の関係を式で示した資料は、メーカーや協会の公開資料には見当たりませんでした。
ワイヤの突出し長さ
チップと母材の距離は、ワイヤの突出し長さとアーク長を足したものです(パナソニック)。
- ダイヘン:ワイヤ径の10〜15倍。ショートアークで8〜15mm、大電流で15〜25mm
- KOBELCO:250A以下で15mm前後、250Aを超えると20〜25mm程度
- 日鉄溶接工業:200A以下で15mm、200〜300Aで20mm、300A以上で25mm程度
突出しを長くすると、電流が下がり、溶け込みが浅くなり、シールドも悪くなります。日本溶接協会の資料の例では、1.2mmのワイヤでトーチの高さを15mmから20mmにすると、電流が310Aから290Aに下がっています。短すぎるとスパッタが出やすく、ノズルにスパッタが詰まりやすくなります。
トーチの角度(前進法と後退法)
| 項目 | 前進法 | 後退法 |
|---|---|---|
| ビード幅 | 広い | 狭い |
| 余盛 | 低い | 高い |
| 溶け込み | 浅い | 深い |
KOBELCOとダイヘンの資料によります。前進法はワイヤの先を進む方向に向けて押して進み、後退法はトーチを進む方向に倒して引いて進みます。
- パナソニックの資料では、前進角10〜20°の前進法が一般的としています。前進角を大きくしすぎると、溶けた金属が前に押し出されて溶け込み不足になります。
- 日本溶接協会の資料では、トーチは極端に傾けず、垂直から±20°を目安としています。
- 薄板では、後退法は溶け込みが増えて溶け落ちやすいので、後退角を付けない方がよいとされています(日本溶接協会)。
- 産総研の資格試験(SA-2F)の実習例では、初層は後退法(凸ビードになる)、2層目と仕上げは前進法(10〜20°)です。
- 溶融池がアークより先に行くと、アークが溶融池の上に出て十分に溶け込みません。下進や高電流で起こりやすいとされています(パナソニック)。
シールドガスの流量と風
KOBELCOと日鉄溶接工業のカタログでは、シールドガスの流量は20〜25L/分が適当としています。ダイヘンの条件表では、薄板(1.2〜1.6mm)は10〜15L/分です。日本溶接協会の資料では、流量を増やしても50L/分くらいまでが妥当で、70L/分では乱流になり、風がなくても空気を巻き込むとしています。ノズルに付いたスパッタもガスの流れを乱すので、こまめに取ります。
風については、日鉄溶接工業やパナソニックの資料で、風速2m/秒以上でシールドが悪くなるとしています。愛知県の鉄骨造の要領では、ガスシールドアーク溶接は風速2m/秒以上なら溶接しない(適切な対策をすれば可)としています。日本溶接協会の研究報告では、この2m/秒は1パスの溶接でブローホールを防ぐための目安で、多層溶接では1m/秒でブローホールや粘り強さの低下が出たため、高品質な溶接には0.5m/秒以下を勧めています。屋外では、つい立てなどで防風します。
よくある失敗と対策
- 薄板の溶け落ち:低電流・低電圧の短絡移行にする、すき間を管理する、後退角を付けない
- スパッタが多い:電圧が低すぎる・高すぎる、突出しが短すぎる、延長ケーブルを巻いたまま使う
- ブローホール・ピット:風、ガス流量、ノズルのスパッタ、母材のさび・油・水分、突出しが長すぎる
- アンダーカット:電流が高すぎる、速度が速すぎる、電圧が高すぎる
- オーバーラップ:速度が遅すぎる、ねらい位置が立板側に寄っている
日本溶接協会、ダイヘン、パナソニックの資料によります。日本溶接協会の資料では、炭酸ガス単独よりアルゴン主体のガスの方が電圧を低めにでき、薄板の溶け落ちを防ぐのに有利としています。ダイヘンの資料では、延長ケーブルが細い・長い・ぐるぐる巻きのままだと電圧が下がり、スパッタが多くなるなどの症状が出るとしています。欠陥の種類は溶接欠陥の種類と原因で説明しています。
安全と資格
- 半自動溶接もアーク溶接等の特別教育(労働安全衛生規則第36条第3号、学科11時間・実技10時間以上)の対象です。
- 溶接ヒュームは特定化学物質障害予防規則の対象で、金属アーク溶接等作業では有効な呼吸用保護具を使わせることになっています(第38条の21)。
- 日本溶接協会の資料では、CO2溶接は被覆アーク溶接よりヒュームと一酸化炭素が多く出るとしています。タンクの中など風通しの悪い場所で炭酸ガスやアルゴンを使って溶接するときは、酸素濃度を18%以上に保つよう換気するか、空気呼吸器などを使います(酸素欠乏症等防止規則第21条)。
- 遮光の番号は、産総研の参考値で、100〜300Aが11・12、300〜500Aが13・14です。
- JIS Z 3841(半自動溶接)の技能資格では、SN-1F(薄板)やSA-2F(中板・裏当てあり)などが基本級です。シールドガスは炭酸ガスか混合ガスを申請のときに選びます。
資格の種類は溶接の資格の種類で説明しています。被覆アーク溶接のやり方はアーク溶接のやり方で説明しています。
半自動溶接のやり方についてよくある質問
3.2mmの鉄板は何アンペアですか
ダイヘンのCO2溶接の条件表では、下向の突合せで130〜150A・19〜21V、水平すみ肉で130〜170A・19〜21Vです。
ワイヤの突出しは何mmですか
ダイヘンの資料ではワイヤ径の10〜15倍が目安です。KOBELCOは250A以下で15mm前後、日鉄溶接工業は200A以下で15mmとしています。
前進法と後退法はどちらがいいですか
前進法はビードが平らで溶け込みが浅く、後退法は溶け込みが深く余盛が高くなります。パナソニックの資料では、前進角10〜20°の前進法が一般的としています。薄板では後退角を付けない方がよいとされています。
ガスは何L/分流しますか
メーカーのカタログでは20〜25L/分が目安で、薄板は10〜15L/分の例もあります。多すぎると乱流で空気を巻き込みます。
風速何m/秒まで溶接できますか
一般に2m/秒以上はシールドが悪くなるとされ、防風が必要です。多層溶接で品質を求めるなら0.5m/秒以下を勧める研究報告もあります。









