溶接のひずみ対策角変形・収縮の原因と逆ひずみ・溶接順序・線状加熱
溶接で板が反ったり縮んだりするのが、溶接のひずみ(溶接変形)です。この記事では、日本溶接協会の技術Q&Aと溶接管理技術者2級の教材、ステンレス協会の資料、公共建築工事標準仕様書(建築工事編)をもとに、角変形・縦収縮・横収縮などの種類と原因、逆ひずみ・拘束・溶接順序・入熱の抑え方、線状加熱などのひずみ取りをまとめます。
溶接でひずみが出る理由
日本溶接協会の資料では、溶接変形は、溶接で局部的に加熱されて熱による膨張が不均一になり、その部分に縮もうとする変形が残るために生じるとしています。熱い部分はふくらもうとしますが、まわりの母材に押さえられてつぶれるように変形し、冷えるとその分だけ縮みます。
同じ資料では、構造物にもよりますが、横収縮と角変形が問題になることが多いとしています。
ひずみの種類
| 種類 | 変形の向き |
|---|---|
| 横収縮 | 溶接線と直角に縮む |
| 縦収縮 | 溶接線の方向に縮む |
| 角変形 | 溶接線を軸に折れる |
| 縦曲がり | 長手方向に反る |
| 回転変形 | 開先が開く・閉じる |
| 座屈変形 | 薄板が波打つ |
日本溶接協会の教材による分類で、実際には組み合わさって出ます。
- 横収縮:縦収縮より大きく出ます。教材では、ルート間隔と開先角度が大きく、溶着量が多いほど大きくなるとしています。拘束された継手では割れの原因になることがあります(日本溶接協会Q&A)。
- 縦収縮:母材に押さえられるので一般に小さく、日本溶接協会Q&Aでは溶接長の1/1000程度としています。ただし、長い部材や薄板では問題になります。
- 角変形:板の表側と裏側で縮む量が違うために起きます。すみ肉溶接では層数にほぼ比例して増えるとされています。
- 縦曲がり:溶接線が部材断面の中心(中立軸)からずれていると起きます。T形の梁や、1本のシームで溶接した管で問題になります。
- 回転変形:溶接の進む先に仮付けなどの拘束があるとルート間隔が狭まり、拘束がないと開くとされています。
- 座屈変形:薄板が馬の鞍のように波打つ変形です。日本溶接協会Q&Aでは、薄板で一番問題になる変形としています。
角変形は入熱と板厚で変わる
日本溶接協会の資料では、板にビードを置いたときの角変形は、ある入熱で最大になり、それより小さくても大きくても減るとしています。入熱が小さいと表裏の縮みの差で曲げる力が足りず、入熱が大きいと裏側まで熱が入って裏も縮むためです。そのため「入熱を下げれば必ず角変形が減る」とは言い切れません。
入熱の計算と抑え方
入熱は、溶接線1cmあたりに入る熱の量です。日本溶接協会の教材では、溶接電流170A・アーク電圧25V・溶接速度15cm/分のとき17,000J/cmとしています。これは次の式で計算した値です。
- 入熱(J/cm):電流(A)×電圧(V)×60÷溶接速度(cm/分)
日本溶接協会Q&Aでは、入熱を下げることは横収縮・角変形の両面から有効としています。教材では、溶接金属あたりの入熱が少ない方法として、被覆アーク溶接よりマグ溶接を挙げています。規定を超える大きな脚長や余盛を付けないことも対策に挙げられています。
ひずみを防ぐ方法
日本溶接協会Q&Aでは、対策の考え方を次の4つに分けています。
- ひずみの原因を減らす(溶接箇所・溶着量・入熱を減らす、順序を工夫する)
- ひずみを見込んで、先に逆向きに変形させておく(逆ひずみ法)
- ジグやクランプで強く拘束する
- 変形させたあとで矯正する(ひずみ取り)
日本溶接協会の別のQ&Aでは、厚板に出た変形は矯正が難しいことが多いので、矯正より防止を考えた施工にすべきとしています。
開先と積層を工夫する
日本溶接協会の教材では、X形開先は片面の角変形が反対面の溶接である程度もどるため、V形より変形が小さいとしています。厚さ20mm程度のX形開先で、表と裏の開先深さを7:3に振り分け、表側、裏はつり後に裏側の順で被覆アーク溶接すると、角変形は最終的にほぼゼロになる例が示されています。開先の形は溶接の開先角度とルート間隔で説明しています。
逆ひずみ法
溶接で出る変形の分だけ、あらかじめ逆向きに曲げてセットしてから溶接する方法です。日本溶接協会Q&Aでは、突合せ溶接の角変形の低減や、矯正が難しい厚板の圧力容器などで使われるとしています。逆ひずみの量は、経験や計算で見込みます。同協会の計算例では、板厚15mm・400A・35V・80cm/分の1パスすみ肉溶接で、角変形は約0.0065rad(約0.4°)です。条件で大きく変わるので、試し溶接で確かめてください。
拘束(ジグ・クランプ)
ジグ、クランプ、重し、仮付けのピースなどで変形を押さえる方法です。日本溶接協会Q&Aでは、この方法は拘束による残留応力が大きくなり、溶接割れが出やすくなるので注意が必要としています。
溶接順序と溶着法
日本溶接協会の教材では、溶接線の方向の進め方(溶着法)として、前進法・後退法・対称法・飛石法を挙げています。
- 前進法:端から一方向に溶接します。
- 後退法:区間ごとに、全体の進む向きと逆向きに溶接します。横収縮を溶接線にそって均等にするねらいです。トーチの傾け方の「後退法」とは別の言葉です。
- 対称法:中央から両側へ、左右が対称になるように溶接します。ねらいは後退法と同じです。
- 飛石法:区間を飛ばしながら溶接して熱を分散させます。横収縮を均等にし、回転変形や薄板の座屈変形も小さくします。区間を短くするほど変形は減りますが、継ぎ目が増えて欠陥が出やすくなります。
ステンレスがひずみやすい理由
| 材料 | 熱伝導率 | 線膨張係数 |
|---|---|---|
| 炭素鋼 | 58 | 11 |
| SUS304 | 16 | 17.3 |
| SUS430 | 26 | 10.4 |
ステンレス協会の比較表の値です(熱伝導率はW/(m・℃)、線膨張係数は×10-6/℃)。SUS304は炭素鋼に比べて熱伝導率が3割弱、線膨張係数が約1.6倍です。日本溶接協会Q&Aでは、ステンレス鋼は軟鋼に比べて熱伝導率が低く、線膨張係数が大きいため、相対的に溶接ひずみが出やすいとしています。熱が逃げにくく、温まった部分の伸び縮みが大きくなるためです。
同じQ&Aでは、オーステナイト系ステンレス鋼は耐食性の面から小さい入熱で溶接し、入熱は20kJ/cm以下、層間温度は180℃程度以下が望ましいとしており、ひずみを防ぐ面からも小入熱が望ましいとしています。薄板のステンレス構造物の例では、外板の溶接をアイロンがけの要領で中央から縁に向かって進めることを原則としています。焼けについてはステンレスの溶接焼けの取り方で説明しています。
ひずみ取り(矯正)の方法
日本溶接協会の教材では、ひずみは溶接部が局所的に縮むことが原因なので、直すには「縮んだところを伸ばす」か「たるんだところを縮める」のが原則としています。
- 機械的矯正:ローラやプレスで、縮んだ溶接部を冷間で伸ばします。精度は良いものの、大きさや形に制約があり、やりすぎると溶接部を傷めることがあります。
- 熱的矯正:たるんだ部分をガス炎で局部的に加熱して冷やし、縮ませます。線状に加熱する線状加熱、点で加熱するお灸(点加熱)があります。加熱直後に水冷すると効果が大きいとされています。
加熱の温度
| 鋼材 | 最高加熱温度 |
|---|---|
| 低炭素鋼など | 約900℃ |
| 調質高張力鋼 | 550℃など |
日本溶接協会の教材の値で、調質高張力鋼は「550℃または焼戻し温度以下」です。高張力鋼で水冷する場合は、650℃以下になってから水をかけないと焼きが入って粘り強さが落ちるため、水冷は避けて空冷にする方が品質上安全としています。AWS規格では調質鋼600℃以下・それ以外650℃以下とするなど規定で値が違うため、適用する規格を事前に調べるよう求めています。
鉄骨工事での決まり
公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版では、鉄骨について次のように定めています。
- 部材の組立順序は、溶接変形が最小となるように決める(7.6.5)。
- 溶接順序は、溶接変形が最小となるように決める(7.6.7)。
- 素材や組み立てた部材のひずみは、各工程で材質を損なわないように矯正する(7.3.6)。
日本溶接協会Q&Aでは、柱の現場溶接は柱の縮みとして現れるので、縮む量を見込んで柱を長めに作るとしています。
よくある失敗
片側から一気に長く溶接する
熱が一方にかたより、横収縮が不均一になったり、開先が開いたり閉じたりします。後退法・対称法・飛石法で熱を分散させ、仮付けの位置も確認します。
強く拘束しすぎて割れる
拘束が大きいほど残留応力が大きくなります。教材では、はめ込み溶接のように拘束が非常に大きい場合は全長を一方向に連続して溶接するのを避け、区切って溶接するよう勧めています。
ひずみ取りで加熱しすぎる
熱的矯正で温度を上げすぎると材質が変わることがあり、部材全体が短くなることもあります。加熱温度の上限と水冷の可否を事前に確かめます。
溶接のひずみについてよくある質問
逆ひずみはどれくらい付ければいいですか
決まった値はありません。入熱と板厚で変わるので、経験や計算で見込み、試し溶接で合わせます。
線状加熱は何度まで加熱していいですか
日本溶接協会の教材では、低炭素鋼などで約900℃、調質高張力鋼で550℃(または焼戻し温度以下)です。規格によって値が違うので、仕様書を確認してください。
クランプで固定すればひずみは出ませんか
変形は小さくできますが、残留応力が大きくなり割れやすくなります。逆ひずみや溶接順序と組み合わせます。
薄板が波打つのはなぜですか
板厚に比べて入熱が大きすぎるための座屈変形です。日本溶接協会Q&Aでは、入熱を小さくすることと、断面を箱形にするなど曲がりにくくすることを対策としています。









